これまで外国人を採用したことがない企業や人事担当者の方にとっては、外国人採用前や後にどのような手続きが必要であるのか、不安を抱えていることもあると思います。しかし、外国人採用後の手続きは複雑だと思われがちですが、特別難しいものではありません。
昨今の社会情勢が落ち着けば、外国人労働者の需要はさらに増えると予想されています。企業の利益を向上させるためにも、外国人労働者の採用に関する手続きに慣れておきましょう。
今回は、外国人の採用決定後に、雇用主や会社が行う手続きについてご紹介いたします。
在留資格の確認
外国人の採用で事前に行う最初のステップとして、「在留資格」の確認をしましょう。
在留資格とは、外国人が日本に滞在するために必要となる資格のようなものです。そもそも在留資格がなければ、日本で働くことができません。日本に3ヶ月以上滞在する外国人は、29種類の在留資格のうち、1つを取得している必要があります。
特に留学生は、留学の目的が勉強や研究であるため、基本的には就労は禁止されています。そのため採用には「資格外活動許可」を受ける必要があります。なお、資格外活動許可を受けたとしても、労働時間は週28時間以内とされ、風俗営業は禁止されています。
また、在留資格では在留期間の満了日も必ず確認しましょう。在留期間の満了日を過ぎた外国人は不法滞在となり、「不法就労助長罪」で雇用主が処罰の対象となるので、注意が必要です。
在留資格の変更手続き
採用が決定した外国人が保持している在留資格と、雇用する会社の業種が異なる場合、在留資格の変更手続きを行わなければいけません。留学生においては、在留カードに資格外活動許可欄に「原則週28時間以内」と記載されている場合は、その範囲であれば仕事をすることができます。
在留資格の変更手続きは、外国人本人が最寄りの出入国在留管理局で手続きを行います。
在留資格変更手続きで必要なもの(本人が用意するもの)
・パスポートおよび在留カード
本人名義で有効期限内であることが必須です。
・在留資格変更許可申請書
在留資格によって申請書の仕様は異なります。申請書の用紙は出入国在留管理局で手にいれるほかにも、法務省のHPからダウンロードすることも可能です。なお、申請書をコピーして使用することもできます。
・写真
申請書に貼り付けるための、裏面に氏名を記載した3cm×4cmの証明写真を用意しましょう。
・申請理由書
特に決まった形式はなく、提出は必須ではありません。しかし、日本で行った活動の内容や就職に至る理由などを綴った文書があると審査の参考になります。
・卒業証明書または卒業見込証明書(留学生の場合)
在籍している大学または専門学校が発行する、卒業証明書または卒業見込証明書を提出します。卒業見込証明書を提出した場合は、卒業証明書が発行され次第、追加で提出する必要があります。なお、証明書が外国語で記載されている場合には、日本語訳したものを添付しなければいけません。
在留資格変更手続きで必要なもの(雇用主が用意するもの)
・雇用契約書のコピー
雇用契約書には、雇用期間や就業場所、職種、就業時間、報酬など労働条件に関する事項が、明確に記載されている必要があります。
・登記事項証明書
雇用する企業など法人の登記簿謄本を本人に手渡します。在留資格変更申請前3ヶ月以内に発行されたものに限ります。
・決算報告書のコピー
決算時に作成する、直近年度の決算報告書のコピーが必要になります。新しく起業したなどの理由で決算報告がなされていない場合は、今後1年間の事業計画書を代わりに提出します。
・法定調書合計表のコピー
毎年1月に雇用主が税務署に提出する、前年分の給与所得の源泉徴収票などを取りまとめた
法定調書のコピーを提出します。必ず税務署の受付印があることを確認してください。
・会社案内書等
会社のパンフレットなど、会社案内が記載されているものを提出します。会社のHPを印刷したものでも構いません。提出に際し、沿革、資本金、役員、組織、事業内容などが明確に記載されていることが望ましいでしょう。
・採用理由書
提出は必須ではなく、書式は自由です。外国人の採用に至った理由や従事する職務、またその職務に対して外国人の必要性などを具体的に記した文書があると、審査の参考になります。
雇用契約書の作成
雇用契約書は在留資格変更手続きの際に必要となるので、採用が決定したら早めに作成しましょう。
基本的には日本人と同じ雇用契約書を作成します。しかし、初めて外国人を雇用するのであれば、日本と海外では労働契約や労働条件に大きな違いがあることを、双方でよく理解し合意することが重要です。企業の大小に関わらず、必ず書面による契約を行います。雇用契約書の作成を行い、従業員に書面やSNS、メールなどで交付することは、日本人との契約と同様に労働基準法で義務化されています。万が一、雇用契約書の作成を怠り、トラブルが発生した場合、責任を問われるのは雇用主側となります。
雇用契約は双方が合意することが前提なので、雇用契約書は外国人も理解できるよう、必要であれば母国語で作成します。日本語で雇用契約書を作成した場合、母国語での翻訳文を添えるなどの配慮を行いましょう。外国人が雇用契約書の内容を理解できないまま、契約を結んだ場合、トラブルが発生した際に、雇用契約書の内容が無効になる可能性もあります。
また、雇用契約書の業務内容は、外国人のこれまでの学歴や職歴に関連したものでないと、申請許可がおりません。さらに、就労ビザが取得できなかった際、雇用契約書について「就労可能な在留資格の許可、および在留資格の更新」として取り扱われる旨を示した一文を追記しましょう。
就労ビザの申請手続き
雇用契約書による雇用契約に合意したら、就労ビザの申請手続きを行います。就労ビザの申請手続きは、外国人の居住する地区を管轄する出入国在留管理局ではなく、採用する企業を管轄する出入国在留管理局で行います。
留学生を採用する場合は、上に挙げた「在留資格変更手続」を行います。すでに日本で就労していた外国人を採用する場合、これまで従事していた職種と同じであれば「就労資格証明書交付申請」を行います。これは、現在の就労ビザのままであっても、自社で採用することが可能かを出入国在留管理局に判断してもらう手続きとなります。就労資格証明書交付申請の場合は、就労ビザの申請手続きは必要ありません。
申請に必要なものは以下の通りです。
・パスポート
・在留カード
・就労資格証明書交付申請書
・資格外活動許可書(現在の在留資格以外の事業で報酬を受ける場合に必要な許可書)
ハローワークへ届け出
外国人を雇用した際には、ハローワークへの届け出が法律で義務付けられています。ただし、外国人が雇用保険に加入する場合は、雇用保険の手続きとハローワークへの届け出を兼ねることが可能です。雇用保険に加入しない場合であっても、「外国人雇用状況届出書」を作成してハローワークに提出する必要があります。
まとめ
在留資格の変更手続きや申請に必要なものを準備することは、外国人にとって困難だと感じる場面もありますが、なるべく本人が行うように促し、必要であればサポートしてあげましょう。
外国人の採用に伴う手続きは、日本人を雇用する場合とは異なる部分もありますが、慣れてしまえば手順通りに進めるだけです。しかし、雇用主にとって大変なのは、むしろ採用後であり、文化や価値観の違い、コミュニケーションが十分でなかったために、トラブルが発生することも予想されます。
今後、企業の労働力向上に向け、外国人の雇用を成功させるためには、ときには日本人従業員よりも細やかな配慮やアフターフォローが必要なのかもしれません。
(画像は写真ACより)