厚生労働省の発表によると、2020年に日本で働く外国人労働者の数は、統計を開始した2007年以来、過去最高の約172万人となりました。人手不足に悩む日本国内では、外国人労働者の需要が高まり、特に30人未満の小規模な事業所での採用率は、前年比で11.3%と最も大きな増加率を示しています。この増加率を見ると、これまで外国人を採用したことがなかった小規模な事業所でも、新たに外国人の採用を導入していることがわかります。
この記事を読んでいる人の中には、初めて外国人スタッフを受け入れることに伴い、どのような対応をとるべきか不安に感じている雇用主や現場スタッフもいることと思います。
そこで今回は、初めて外国人を採用するにあたり、現場スタッフの教育や外国人スタッフへの配慮などを詳しくご紹介していきます。
現場スタッフの教育
株式会社ディスコが2019年12月に行った「外国人留学生/高度外国人材の採用に関する企業調査」から、企業が抱える課題のトップ3を見てみましょう。
最も多かった課題は、「社内での日本語コミュニケーション能力の不足」が44.8%、次いで「海外人材を活用できる日本人管理者の不足」(39.1%)、「文化や価値観、考え方の違いによるトラブルがある」(35.3%)となっています。
このことから、外国人の採用に伴う課題として、現場スタッフの受け入れ体制を整えることや異文化に対する正しい知識を持ち、理解することが必要であることがわかります。
・異文化理解の教育
日本と海外では、文化や慣習が大きく違うことを、現場スタッフ一人一人に教育し、理解してもらいましょう。
日本人と違い、外国人は「空気を読む」「オブラートに包んで話す」など、ある一定のタイプやルールの上で成り立つような「慣習」を理解することができません。そのため、「これをやってほしい」や「それはしてはいけない」ということを明確に伝えることが重要です。
また、外国人は自分の気持ちをストレートに表現する傾向があります。日本人にとっては戸惑ってしまうような発言であっても、海外では自分の意思を伝えるための、まっとうな表現方法だということを理解しなければいけません。
仕事の休憩時間には、外国人スタッフと食事を共にする機会もあるかもしれませんが、食事作法の違いや、宗教上の理由で食べられないものがあることなどを理解しておく必要があります。
・外国人スタッフへの配慮
言葉も文化も違う土地で仕事をする外国人スタッフは、大きな不安を抱えています。
外国人スタッフにとっては、物事をストレートに表現しない日本人スタッフに対して、それが「良い」のか「悪い」のかがわからず、戸惑うことも多いようです。そこで、日本人なら当たり前だと思うことでも、わかりやすく説明してあげましょう。特に「良い」「悪い」を曖昧にせず、どちらなのかを明確に伝えることが重要です。言葉が伝わりにくいのであれば、別の言葉に置き換えたり、画像などを用いたりすれば理解しやすいでしょう。
ときには、外国人スタッフにとっては理解しがたく、納得できないと憤慨することが発生するかもしれません。その際、外国人スタッフは不満や拒否の態度をストレートに口にすることもあるでしょう。しかし、日本で働くということは、異文化を受け入れることも必要であることを伝えなければいけません。日本人スタッフは、外国人スタッフの異文化を受け入れて理解しようと努めており、そこはお互い様だということを理解してもらいましょう。
文化や習慣において、宗教上の理由で食べられないものがある場合は、社食のメニューに考慮することも必要です。ときには、従業員もハラル食を体験し、外国の文化を共有してみることも、コミュニケーションの1つとして良いアイディアです。また、宗教の理由から祈祷室を用意することや、女性は肌や髪を隠さなければならないことにも配慮しましょう。
外国人スタッフの育成は日本人を育成するよりも、幾分か時間を要することを想定し、体制を整えておきましょう。外国人スタッフに気持ちよく働いてもらうためにも、外国人スタッフの採用を、ポジティブに受け入れているという姿勢を見せることが重要です。
受入体制の準備について
・語学面でのサポート
日本で働くための就労ビザには種類がありますが、日本語能力試験レベルの有無に関しての条件はありません。日本で働くには、日本語能力試験のレベルではN2以上が目安とされています。しかし、日本語能力試験のレベルは日本語力を測る指標の1つであり、N4やN3レベルでもスムーズに会話ができる外国人もいます。そのため、真の日本語力は実際に会話を交わしてから判断しましょう。
どの程度会話ができるかを判断した上で、業務に関わる会話は全て日本語でも可能であれば、積極的に日本語でコミュニケーションをとりましょう。仮に日本語でのやり取りがスムーズでない場合も、はっきりと正しい日本語に言い直したり、優しい単語に言い換えたりすることで伝わることもあります。採用する外国人が複数であれば、日本語研修の時間を設けることもよいでしょう。
日本で仕事をするのだから日本語以外は使用しないと決めつけず、外国人に寄り添ってあげることも、仕事を早く覚えて慣れてもらうためには必要なサポートです。また、自身のスキルアップのためにも、外国語を学べるいいチャンスだと捉えることもできます。ときには社内レクリエーションの一環として、お互いの言語を教え合う機会を設けることも良いアイディアです。
・私生活でのサポート
外国人を採用するに伴い、早く同僚となじんでもらうためにも、私生活でもぜひサポートしてあげましょう。積極的にコミュニケーションをとり、レクリエーションや懇親会などを開催することで、仲間意識を高めることにつながります。
大々的なサポートができない場合、引越しやスマホの手続きなど、困っていることはないかと声をかけてみるだけでも、立派な手助けになります。できればマンツーマンでサポートできる人をつけると、より手厚いサポートができるでしょう。
また、外国人は日本人と比べて家族とのつながりを重んじる習慣があり、頻繁にオンラインチャットなどで何気ない会話をする傾向にあります。そこで、母国にいる家族を安心させてあげるためにも、一緒に会話を楽しんでみましょう。外国人労働者の中には、母国の家族に仕送りをしている人も多いようです。特に外国人労働者の両親は、家族のために異国の地で働く我が子を、日々心配しています。日本で、仕事場の人と楽しく過ごしているとわかれば、安心してもらえることでしょう。
まとめ
初めて外国人スタッフを受け入れる上で、現場スタッフは、これまでの日本人育成とは異なり、新しい人材育成の方法を学ばなければいけません。
しかし、外国人スタッフを受け入れることで若い労働力の確保ができ、会社の利益向上につながります。また、日本人スタッフにとっても、外国人スタッフを育成することで、仕事に対して改めて深く考えることができるほか、多様性のある価値観を持つ人間として成長することもできます。
重要なのは、外国人を受け入れることに対し、雇用主や現場スタッフが正しい知識を持ち、体制を整えておくことです。外国人が仕事に慣れ、同僚と強い団結力で成果を上げることができれば、初めての外国人採用が成功したと感じられるのではないでしょうか。
(画像は写真ACより)